中学受験算数で図はどう使う?線分図・面積図・天秤図の役割と使い分け

文章題になると、急に手が止まる。「図を描いて考えてごらん」と言っても、何を描けばいいのか分からない。そんな場面はありませんか。中学受験算数では、線分図・面積図・天秤図など、さまざまな図が使われます。ただ、「どの図を使えばよいか」だけを覚えても、それだけで図を使って考えられるようになるわけではありません。この記事では、そもそも何のために図を使うのか、まず何を身につければよいのか、そして使える図を増やした方がよい子と、増やさない方がよい子の違いを整理します。
図は「答えを出すための型」ではなく、関係を見えるようにする道具
文章題では、計算そのものだけでなく、問題文に書かれた量の関係をどう整理するかが重要です。数字は読めても、「何と何を比べているのか」「どの量が分かっていて、どの量を求めるのか」が整理できないまま式を作ろうとすると、手が止まることがあります。
そこで役に立つのが図です。文章の中に並んでいる量を、線や面積などの形に置き換えることで、量どうしの関係を目で確認できるようになります。置き直すことで、なぜ掛けるのか、なぜ割るのかも自分で確かめやすくなります。
もう一つ、図には「分かっている量」と「まだ分かっていない量」を分けて置けるという働きがあります。文章のままだと、両者は同じ顔をして並んでいます。図にすると、確定している部分と、これから求める部分が別のものとして見えます。ここから考え始めればいい、という手がかりが生まれます。
速さや割合を「みはじ」「くもわ」のような形で整理する方法もよく使われます。使い慣れていて答えが合っているなら、それ自体を否定する理由はありません。ただ、当てはめてはいるものの、なぜその位置に数を入れるのか説明できない状態が続いているなら、一度図に戻って、何と何を比べているのかを確認しておく価値はあります。
ここで一つ、注意したい点があります。図を描いたから理解している、とは限りません。線を二本引いただけ、四角を描いただけで、そこに何を表すかを考えていない図もあります。図がきれいに描けているかよりも、そこに書かれた線や面積が何を指しているかを本人が説明できるかどうかを見ることが大切です。
まずは一つの図を、意味まで理解して使えるようにする
使える図が多い子ほど算数ができる。そう思われがちですが、実際には順序が逆です。図の種類を知っていることと、算数で得点できることは、そのままつながりません。
先に来るのは、一つの図を自力で正確に使える状態です。問題を読んで、自分で線を引き、どこに何を書けばいいかを自分で決められる。しかも、その線の長さが何を表しているかを言葉で説明できる。ここまで来て初めて、その図は本人の道具になります。
進学塾サンライズでは、基礎を「簡単な問題が解けること」とは考えていません。解法の名前を知っていることでも、公式を覚えていることでもありません。
- なぜその方法を選ぶのか
- 図のどの部分が何を表しているのか
- 少し形の違う問題でも、同じ考え方を持ち込めるか
- 誰にも聞かずに、もう一度自分で再現できるか
ここまで含めて、基礎が入っている状態だと考えています。
この見方に立つと、図を三つ知っていても、どれも意味を説明できず、自力では使えないのであれば、基礎が十分に定着しているとは言いにくいでしょう。特に、まだ一つの方法も安定していない段階で新しい解法を足すと、どれを使えばよいか分からなくなり、かえって混乱することがあります。武器を増やすことより、まず一つを確実に使えるようにすることが先です。
問題によって、使われる図には違いがある
そのうえで、図にはそれぞれ得意な場面があります。ここでは代表的な三つを見ていきます。ただし、どの図がどの単元に必ず対応する、という対応表を覚える必要はありません。
線分図|二つの量の関係を整理する
線分図は、量と量を並べて比べたいときに使われることが多い図です。比、割合、速さ、二つの数量の和と差など、「どちらが基準か」「何と何を比べているか」を整理したい場面で登場します。
割合の問題で式が立たない子に理由を聞くと、「何を1とするか」が決まっていない場合があります。0.6を掛けるのか、0.6で割るのか。これは計算の問題ではなく、どちらの量を基準に置いているかの問題です。線分図は、その基準を紙の上ではっきりさせるために使えます。
もちろん、比や割合なら必ず線分図、というわけではありません。他の図の方が見通しがよい問題もあります。
面積図|積や全体との関係を整理する
面積図は、二つの量の関係を縦と横に置き、その積として表される全体を整理したいときに使われます。平均算や仕事算、つるかめ算など、複数の量の関係を数字だけで追うと分かりにくい問題で、考え方を整理する助けになることがあります。
たとえば平均の問題では、点数と人数を掛けた合計を扱います。分数や小数が出てくると、何を何で割っているのか見えにくくなることがあります。縦と横のある四角として置くと、確定している部分がどこで、まだ埋まっていない部分がどこかが分かれます。分かっている場所から考え始められる、というのが面積図の使いどころです。
ここでも、単元ごとに面積図の型を暗記する形にしてしまうと、結局は公式の当てはめと同じことになります。四角の縦が何で、横が何かを毎回自分で決める。その手順を飛ばさないことが、後で効いてきます。
天秤図|差と割合の関係を短く整理できる場合がある
天秤図は、平均点の問題などで使われる図です。基準からの差と、その差を生んでいる量の比の関係を、短い手順で処理できる場合があります。
ただ、この図の扱いは指導方針によって分かれます。最初から基本の解き方として教える塾もあれば、面積図を基本に据えて、余力のある子にだけ天秤図を渡す塾もあります。便利な図ではありますが、全員が必ず持っていなければならない図とは限りません。
同じ問題でも、複数の図で解けることがある
平均点の問題は、面積図でも天秤図でも考えられます。ここで「どちらが正解か」を決める必要はありません。
保護者の方から見て困るのは、通っている塾と、家にある教材と、動画で説明された解き方が食い違うときだと思います。子どもが「学校ではこう習った」と言い出すこともあります。どれかが間違っているように見えて、不安になるかもしれません。
複数の解き方が成り立つ問題では、どの図を基本の方法として教えるかが、塾や教材によって異なることがあります。大切なのは、方法が違うこと自体ではなく、子どもが今使っている方法の意味を理解し、自力で使える状態になっているかどうかです。
このとき家庭で選ぶべきなのは、教わっている解き方を安定させることです。今習っている方法で、自分の力で最後まで書けるようになる。そこまで来てから、「別のやり方でも解けないかな」と考えてみる。この順番なら、二つ目の図は混乱ではなく広がりになります。
使える図を増やした方がよい子、増やさない方がよい子
同じ「図を教える」でも、効く子と、かえって手が止まる子がいます。判断の材料になる場面を挙げます。
まず一つに絞った方がよいケース
- 基本となる一つの解き方が、まだ自力では最後まで書けない
- 描いた線や四角が何を表しているか、聞かれると答えられない
- 問題を見て、どの図を使うかを選ぶところで止まってしまう
- 特殊算の名前と解き方を、片端から覚えようとしている
- 新しい解き方を教えると、前に使えていた方法まで怪しくなる
こうした状態のときは、図の種類を足しても、選択肢が増えて迷いが増えるだけになりがちです。まず一つを、意味が分かった状態で最後まで書ける形にする。優先順位はそちらが先です。
別の図・別解へ広げてよいケース
- 基本の図を、何も見ずに自分で描ける
- 図のどの部分が何を表しているか、言葉で説明できる
- 問題に取り組む時間に余裕がある
- 解き終えたあとに「他の方法はないかな」と自分で考える
ここまで来ている子には、二つ目の図が入る余地があります。深く身についた基礎を、状況に応じて選んだり組み合わせたりできる。それが応用と呼ばれる状態です。応用は、新しい解法を上に積むことではなく、手元の道具を使い分けられるようになることだと考えています。
上位校を目指すなら、図を描く「速さ」も必要になる
図はきれいに描くためのものではありません。上位校の入試になると、時間の中でどれだけ手を動かせるかが効いてきます。
ここで言う速さは、線を引くスピードのことではありません。問題を読む、量の関係をつかむ、どの図で整理するかを決める、描き始める。この一連の流れが止まらないかどうかです。
難しい問題ほど、最初の一手が出るかどうかで差がつきます。まったく手が出ずに白紙のまま終わる問題を減らせるかどうか。その分かれ目になるのが、迷わず図を描き始められる状態です。
そのためには、基本となる図を、問題を読むたびに一から思い出している状態ではなく、必要な場面で自力で使えるところまで身につけておく必要があります。上位校を目指す場合でも、図の種類をむやみに増やす前に、まず基本となる図を安定して使える状態を作ることが重要です。
図を使う練習に向く教材
図を使う練習を家庭でも進めたい場合、教材を一冊決めて取り組む方法があります。ただ、教材を用意すれば図が描けるようになるわけではありません。あくまで練習の場を作るためのものとして考えてください。
線分図の練習なら『サイパー思考力算数練習帳 比較・順序・線分図他 新装版』
線分図を使う文章題を、まとまった量で練習したい場合の候補になります。図を描くこと自体にまだ慣れていない段階で、一つの図に絞って取り組みたいときに向いています。
一冊終えれば図が使えるようになる、という性質の教材ではありません。描いた線について「これは何を表しているの?」と一度聞ける状態で進めると、練習の意味が変わってきます。
塾用教材では図解を多く扱うものもある
塾で使われる教材の中には、図を書いて解く流れを重視して作られているものがあります。『ほーぷ 算数 標準編』もその一つです。
ただし、こうした教材は塾専用として作られており、指導と組み合わせて使う前提になっています。家庭で単独に購入して進めるものとしては勧めません。塾用教材にはこうした選択肢もある、という程度に受け取っていただければと思います。
家庭で「図を描きなさい」と言う前に確認したいこと
家庭で図の練習に付き合うとき、声のかけ方で結果が変わります。
まず、「図を描きなさい」だけだと、何を描くかが決まりません。代わりに「何と何の関係を整理したいの?」と聞いてみてください。答えられないときは、そもそも問題文の量が頭に入っていない可能性があります。
次に、親が完成した図を先に描いてしまわないこと。描いてもらった図を写す作業は、図を使ったことにはなりません。線が曲がっていても、位置がずれていても、本人が引いた線であることに意味があります。
そして、描けたら「この線は何を表している?」「この四角の縦は何?」と一度聞いてみてください。自分の言葉で説明できれば、図の意味を考えて使えているかどうかを確認する手がかりになります。うまく説明できない場合は、まだ図の形だけを覚えている可能性があります。
最後に、毎回いくつもの解き方を教える必要はありません。今使っている方法が最後まで書けるようになるまでは、一つで進めて構いません。
まとめ
図は、解法のパターンを増やすためのものではありません。文章に書かれた量の関係を目に見える形にして、自分で考えを進めるための道具です。
だから、順番はいつも同じになります。まず一つの基本的な図を、意味が分かった状態で自力で使えるようにする。それが安定してから、必要に応じて別の図や別の解き方へ広げる。使える図の数そのものを目標にはしません。
今日、お子さんが図を描いていたら、「この線は何を表しているの?」と一度聞いてみてください。返ってくる答えで、今どの段階にいるのかが見えてきます。

