どうして?の一言で変わる!家庭でできる“深い学び”の声かけ術

「うちの子、すぐに“わからない”って言うんです」――そんな相談をよく受けます。
確かに、親としては困ってしまいますよね。けれど、子どもが“わからない”と口にしたその瞬間こそ、考える力が育つチャンスでもあります。
親が少し言葉を変えるだけで、子どもは自分の頭で考え、理解を深めるようになります。
この記事では、家庭でできる「深い学び」を促す声かけについて、塾での実践例を交えながら紹介します。
子どもが“考えなくなる”家庭の共通点
どんなに優秀な子でも、「とりあえず聞く」「すぐ答えを知りたがる」時期があります。
これは怠けではなく、考える前に助けられる環境に慣れすぎたことが原因です。
多くの家庭では、次のような会話がよくあります。
- 「わからないの?じゃあこうでしょ?」
- 「違う、それはこうするの!」
- 「何度言ったらわかるの!」
こうしたやり取りは悪意があるわけではありません。
むしろ、子どもを助けたい・理解させたいという親心の裏返しです。
しかしその結果、子どもは「困ったら誰かが教えてくれる」と学んでしまいます。
すると自分で考える前に質問し、失敗を避けるようになります。
“考える力”を育てる第一歩は「沈黙を待つ」
塾で生徒を見ていると、「わかりません」と言いながらも、実は答えを見つける途中の子が多いのです。
ほんの10秒、親や先生が待つだけで、子どもが自分で気づくことがあります。
この「待つ」時間こそ、思考が動き出す瞬間です。
私が塾でよく言うのは、
「すぐに教えるのは“答えの短縮”、でも子どもが考える時間は“力の蓄積”。」
ということです。
親ができる最初の支援は、“言葉をかける前に待つこと”。
そして、そのあとで「どうしてそう思ったの?」と一言添えるだけで、子どもの思考は深まります。
日本の子どもは「学力が高くても自信がない」
文部科学省が引用するOECDのPISA2022(国際学習到達度調査)によると、
日本の15歳の生徒は数学的リテラシー1位、科学的リテラシー1位、読解力2位という非常に高い学力を示しました。
一方で、「自分で学びを進められる」「うまくいくと思える」といった自律学習・自己効力感の指標では37カ国中34位と低水準です。
つまり、知識は豊富でも、“考えることに自信がない”という現実があります。
このギャップを埋めるのに、実は家庭での“声かけ”が大きなカギを握っています。
学校では一人ひとりに丁寧な対話の時間を取るのが難しいため、家庭で「考えることを安心してできる環境」を整えることが、子どもの成長を左右します。
※出典:OECD(2022)『PISA 2022』
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/
「浅い問い」と「深い問い」の違いを知る
子どもを“考える子”に変える最大のポイントは、問いの質にあります。
問いかけの仕方を少し変えるだけで、学びの深さがまるで違ってきます。
| シーン | 浅い問いかけ | 深い問いかけ |
|---|---|---|
| 宿題中 | 「ちゃんとやった?」 | 「どうやってその答えを出したの?」 |
| 間違えたとき | 「なんで間違えたの?」 | 「どこから考えがずれたと思う?」 |
| 成功したとき | 「すごいね!」 | 「どうしてその方法を思いついたの?」 |
| 学校から帰宅後 | 「今日はどうだった?」 | 「今日、一番“考えたな”って思う瞬間はどこだった?」 |
この表を見ると、「深い問い」はすべて、思考の過程を言語化させる内容になっています。
問いを変えると、子どもは「考え方」そのものに意識を向けるようになります。
これが“深い学び”を生む第一歩です。
ここで少し注意が必要です。
この記事を読んで、「なんで間違えたの?」という質問を“深い問い”として使ってみたのに、
子どもが黙ってしまったり、反発したりしてうまくいかないというケースもあるでしょう。
それは、その言葉自体が悪いのではなく、受け取る側が“責められた”と感じやすい言葉だからです。
「どうして間違えたのかな?」のように、語尾を柔らかくしたり、表情を穏やかにしたりするだけで伝わり方は変わります。
ただし、より思考を促したい場合には、
「どこで考えが違ったと思う?」
「次はどうしたらうまくいくと思う?」
のように、原因ではなく“考えの過程”や“次の工夫”を聞く問いへ少しずつ切り替えていくのが理想です。
「深い問い」は“正解探し”ではなく“意味探し”
深い問いを投げかけるときに大切なのは、正しい答えを求めないことです。
目的は「どのくらい考えたか」を引き出すことであって、正誤を判断することではありません。
たとえば、算数で間違えたときに「どこが違った?」と尋ねると、
子どもは一度手を止め、思考の流れをたどり始めます。
それだけでメタ認知(自分の考え方を客観的に見る力)が育ちます。
この力は、ただの勉強だけでなく、人生全体の問題解決力にもつながります。
大人になってからの「仕事の進め方」「人との関わり方」も、実はこの“自分の思考を振り返る力”が基盤になっています。
教えるより、「考え方を褒める」
親がよくしてしまう間違いは、「結果だけを褒める」こと。
もちろん「100点取ったね!」という言葉も大切ですが、それだけだと子どもは結果主義の学びに偏ってしまいます。
本当に伸びる子は、結果よりも「プロセス」を褒められた経験が多いのです。
たとえば、
- 「途中で図を使ったの、いい工夫だね」
- 「さっきより考え方が整理されてきたね」
- 「答えが違っても、考えた道筋は良かったよ」
こうした言葉が、子どもの自己効力感(自分にはできるという感覚)を支えます。
これが育つと、「もっとやってみよう」という意欲が生まれ、学びが自走します。
家庭でできる「深い学び」3ステップ
ここでは、家庭で無理なく続けられる方法を3つ紹介します。
毎日の学習の中に少しずつ取り入れてみてください。
① 勉強前に「今日のゴール」を聞く
「どこまでやる?」ではなく、「今日はどんなことをできるようにしたい?」と聞きます。
子どもが目的を意識して勉強に取り組むだけで、集中力が変わります。
② 勉強中は「方法」を聞く
「どうやって考えたの?」「別のやり方もある?」
こうした質問で、思考の多様性を意識させます。
③ 勉強後に「発見」を聞く
「今日、一番わかったことは?」「次に活かせそうなことは?」
振り返りの質を高めることで、学びの定着率が上がります。
この3ステップを繰り返すと、子ども自身が学びを設計する感覚を持ち始めます。
これが、教育心理学で言う「自己調整学習(自分で学びをコントロールする力)」です。
難しい理論ではなく、家庭での対話の積み重ねで自然に育てることができます。
「やりなさい」と言わなくて済む家庭に
子どもが自分で学びを進められるようになると、親が「勉強しなさい」と言う必要がなくなります。
それは決して放任ではありません。
むしろ、子どもが自立して学ぶための信頼と見守りの形です。
塾でも、最初は「やらされていた」生徒が、自分でノートを整理し始めたり、
「この問題は別のやり方でも解けそう」と言い出す瞬間があります。
そのとき、表情は驚くほど明るい。
“できた”よりも“自分で考えられた”ことに喜びを感じるからです。
家庭でも同じです。
親が少しだけ「問い方」を変え、結果より過程を見つめるようになるだけで、
子どもの学び方は確実に変わります。
「どうして?」が子どもを変える
深い学びは、難しい教材や特別な教育法から生まれるものではありません。
日々の会話の中の「問い」が、子どもの思考を育てます。
「なんでそう思ったの?」
「どうやって考えたの?」
このたった一言が、子どもにとっては“考えるスイッチ”になります。
親が急がず、焦らず、見守りながら声をかける。
その積み重ねが、子どもを“自分で考えて学べる子”へと導きます。
家庭での小さな問いかけが、やがて子どもの人生を支える学びの羅針盤になるのです。
FAQ
低学年の子にも「どうして?」と聞いていいですか?
はい。ただし難しい質問ではなく、子どもの表現に合わせて聞き方を変えましょう。
「どっちが好き?」「どうしてそう思ったの?」からで十分です。「どうやってできたの?」でもよいですね。むしろ幼児や低学年のころからの声かけの方が効果は大きいです。
子どもが答えたくなさそうなときは?
無理に聞かず、時間をおいてから話題を戻しましょう。考えを整理する時間も成長の一部です。
間違いばかりで落ち込んでいる場合は?
「違っても考えたこと自体がすごい」と伝えましょう。努力のプロセスを褒めることがポイントです。
兄弟で差があり、上の子ばかり褒めてしまいます。
結果ではなく「考え方の工夫」「粘り強さ」といった視点で、それぞれの強みを見つけて伝えるようにしましょう。
塾や学校で同じようにできる?
必ずしも協力してもらえるとは限りません。
先生にも授業方針や時間の制約がありますし、全員に同じ関わり方をするのは難しい場合もあります。
ただ、家庭での声かけを続けることで、子どもの「考える姿勢」そのものが変わることは多くあります。
その変化が先生にも伝われば、自然と良い連携が生まれることもあります。
まずは家庭で「考える力を育てる環境」をつくることが、一番確実で効果的です。その上で、「考える姿勢」を尊重する学校や塾選びをされるとよいでしょう。
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