本が多い家庭ほど学力が高い理由―全国学力調査が明らかにした事実

最新の全国学力調査(令和6年度)では、家庭の本の冊数が多いほど子どもの学力が高いことが明らかになりました。一方、ここ数年、家に本が少ない子どもの割合が増えています。家庭の蔵書数が学力に与える影響を具体的なデータとともにご紹介し、ご家庭で取り入れられる工夫や対策について解説します。
家庭の本の冊数が学力を左右する理由とは?
家庭に置かれた本の冊数が子どもの学力に深く関係していることは、以前から知られていましたが、最新の全国学力調査のデータから、その関連性が改めて明らかになりました。なぜ、本が多い家庭ほど子どもの学力が高くなるのでしょうか。その理由について具体的に解説していきます。
読書量の増加が「国語力」の基礎をつくる
まず、本がたくさんある家庭では、子どもが自然と本を手に取る機会が増えます。本に触れる機会が多いほど、文章を読む力や語彙力が高まり、結果として国語力が向上します。
実際、全国学力調査の結果でも、本が多い家庭の子どもほど国語の平均正答率が明らかに高い傾向にあります。国語力が上がれば、文章問題の多い算数・数学をはじめ、理科や社会など他の教科の理解力も自然と向上します。
自発的な学習習慣が身につきやすい
家に多くの本がある環境では、子ども自身が興味のある本を自由に選び、自発的に学ぶことができます。好きなテーマの本を読むことで、学ぶ楽しさや新しい知識を得る喜びを早い段階から経験します。
自発的に本を読む習慣がついた子どもは、勉強に対しても前向きになり、学校の授業や宿題にも積極的に取り組む傾向が高くなります。
集中力や考える力が伸びる
読書は単に情報を得るだけでなく、物語の展開を追ったり、書かれている内容を深く考えたりするため、高い集中力を必要とします。本を読むことで、自然と集中力や深く考える力が養われます。
これらの力は、学力を高めるために不可欠です。特に中学生になると、抽象的な概念や複雑な内容を理解する場面が増えるため、本を通じて培った集中力や論理的な思考力が学習の大きな支えになります。
親子のコミュニケーションが活発になる
家庭に本がたくさんあれば、親子で本について話す機会が増えます。本をきっかけに親子で感想を共有したり、内容について質問したりすることが、子どもの理解力を深める助けになります。
さらに、親との会話を通じて、自分の考えを整理して表現する力も育ちます。このようなコミュニケーションが習慣化すると、家庭での会話が豊かになり、子どもの学習意欲や知的好奇心を刺激します。
家庭環境そのものが知的刺激となる
家庭に本があるということ自体が、知的刺激に満ちた環境を作ります。常に新しい情報や知識に触れるチャンスがあり、子どもは自然と「学ぶことが楽しい」「知らないことを知りたい」という意識を持つようになります。
そうした環境下で育つことで、子どもは学習に対して意欲的になり、結果的に学力が高まります。
まとめ:家庭の蔵書は子どもの将来の学力を支える財産
全国学力調査の結果は、「本が多い家庭ほど子どもの学力が高い」ということを明確に示しています。家庭で本を増やすことは、単なる知識を増やすだけでなく、子どもの学習習慣や集中力、思考力、コミュニケーション能力といった、将来的な学力を支える大切な要素を育てることにもつながります。
本を通じて、子どもの可能性を引き出す家庭環境を作ることが、親ができる最も効果的な教育支援のひとつだと言えるでしょう。
【最新版】全国学力調査のデータから見る本の冊数と学力の関係
令和6年度全国学力・学習状況調査の結果から、家庭の本の冊数と子どもの学力との関連性が明らかになりました。この調査では、小学6年生と中学3年生を対象に、国語と算数・数学の学力を測定するとともに、生活習慣や学習環境に関する質問紙調査も実施されました。
調査結果によると、家庭にある本の冊数が多いほど、子どもの学力が高い傾向が見られました。例えば、家に501冊以上の本がある家庭の子どもは、国語や算数・数学の平均正答率が高く、逆に本の冊数が少ない家庭の子どもは、平均正答率が低い傾向がありました。
また、令和3年度と令和6年度を比較すると、本の冊数が少ない家庭の割合が増加し、蔵書の多い家庭の割合が減少していることが分かりました。この変化は、子どもの学力にも影響を及ぼしている可能性があります。
家庭に本が多いことは、子どもが自然と本に触れる機会が増え、読書習慣が身につくことにつながります。読書は、語彙力や読解力を高めるだけでなく、思考力や表現力の向上にも寄与します。また、親子で本について話し合うことで、コミュニケーションが活発になり、学習意欲の向上にもつながります。
一方で、近年はスマートフォンやタブレットの普及により、子どもが本に触れる機会が減少していることも指摘されています。家庭での読書環境を整えることが、子どもの学力向上にとって重要であると言えるでしょう。
家庭に本を増やすことは、子どもの学力向上にとって有効な手段の一つです。図書館を活用したり、親子で本屋に行ったりすることで、子どもが本に親しむ機会を増やすことができます。また、親子で読書の時間を共有することも、学力向上につながるでしょう。
家庭の蔵書数と子どもの学力には密接な関係があることが、全国学力・学習状況調査の結果から明らかになりました。家庭での読書環境を整え、子どもが本に親しむ機会を増やすことが、学力向上につながると考えられます。保護者の皆様には、家庭での読書環境づくりに取り組んでいただきたいと思います。
小学6年生:本が少ない家庭ほど学力の差が広がる
小学6年生について令和3年度(2021年)と令和6年度(2024年)の「家の本の冊数」回答別に、該当児童の割合と国語・算数の平均正答率をまとめたものです。
家にある本の冊数 (冊) | 2021年 児童割合 | 2024年 児童割合 | 2021年 国語 正答率 | 2024年 国語 正答率 | 2021年 算数 正答率 | 2024年 算数 正答率 |
---|---|---|---|---|---|---|
0~10 | 11.0% | 14.2% | 53.8% | 56.7% | 58.7% | 50.5% |
11~25 | 18.8% | 21.1% | 59.7% | 63.7% | 64.6% | 58.0% |
26~100 | 33.6% | 32.2% | 65.8% | 69.9% | 71.4% | 65.9% |
101~200 | 19.3% | 17.1% | 68.9% | 72.9% | 74.5% | 69.9% |
201~500 | 12.2% | 10.4% | 71.5% | 75.2% | 77.4% | 73.3% |
501以上 | 5.0% | 4.8% | 71.2% | 74.1% | 76.9% | 72.5% |
出典:令和3年度及び令和6年度の「全国学力・学習状況調査 調査結果資料」をもとに作成。
全国学力調査の最新データから、小学6年生を対象にした調査結果を詳しく見てみましょう。すると、家庭の本の冊数が少ないほど学力差が顕著に広がっていることが明らかになっています。
令和6年度の全国学力調査によれば、家庭にある本の冊数が「0~10冊」と非常に少ない児童の割合は14.2%と増加傾向にあります。この層の平均正答率は国語が56.7%、算数が50.5%でした。一方、本の冊数が「501冊以上」の児童の平均正答率は国語74.1%、算数72.5%となり、国語で17.4ポイント、算数では22ポイントもの差がついています。
また、中間的な「101~200冊」や「201~500冊」の家庭でも、冊数が少ない家庭と比べて明確な差が見られます。具体的には、「101~200冊」の児童の平均正答率は国語72.9%、算数69.9%と高く、「201~500冊」になるとさらに国語75.2%、算数73.3%へと伸びています。
特に懸念されるのは、本の少ない家庭が増えている点です。令和3年度と比較すると、「0~10冊」「11~25冊」の割合が増えており、逆に「101冊以上」の蔵書を持つ家庭は減少しています。つまり、学力が比較的低くなりやすい環境にいる子どもが増加しているということです。
家庭に本が少ない場合、日常的に読書に触れる機会が減り、語彙や読解力が不足しやすくなります。その結果、算数の文章題や理科、社会など幅広い教科で理解力が伸び悩むことになります。
このような学力格差を防ぐためには、まず親が家庭内で意識的に本を増やす工夫が求められます。図書館を利用したり、子どもと一緒に本屋へ出かけたりすることで、日常的に本に触れる習慣を身につけさせることが可能です。家庭の読書環境を整えることが、小学生の時期からの学力形成に大きく関わることを、ぜひ意識して取り組んでいただきたいと思います。
中学3年生:数学・国語ともに明確な学力差
続いて、中学3年生について令和3年度(2021年)と令和6年度(2024年)の比較表を示します。
家にある本の冊数 (冊) | 2021年 生徒割合 | 2024年 生徒割合 | 2021年 国語 正答率 | 2024年 国語 正答率 | 2021年 数学 正答率 | 2024年 数学 正答率 |
---|---|---|---|---|---|---|
0~10 | 14.4% | 17.6% | 55.8% | 48.6% | 47.8% | 41.8% |
11~25 | 19.6% | 21.4% | 62.0% | 55.7% | 54.4% | 49.6% |
26~100 | 31.5% | 31.5% | 66.1% | 60.7% | 58.6% | 55.5% |
101~200 | 17.3% | 15.3% | 68.4% | 63.7% | 61.2% | 59.3% |
201~500 | 12.3% | 10.1% | 70.7% | 66.5% | 63.7% | 62.8% |
501以上 | 4.6% | 3.5% | 70.4% | 66.6% | 63.3% | 63.2% |
出典:令和3年度及び令和6年度の「全国学力・学習状況調査 調査結果資料」をもとに作成。
中学3年生を対象とした全国学力調査の最新データでも、小学生同様、家庭の本の冊数と学力にはっきりとした関連性が確認されています。特に数学と国語の両教科において、本が少ない家庭と多い家庭との学力差はさらに明確になっています。
令和6年度の調査結果を詳しく見ると、家庭にある本の冊数が「0~10冊」と最も少ない生徒の割合は17.6%で、その生徒たちの平均正答率は、国語が48.6%、数学が41.8%となっています。一方、「501冊以上」の本がある家庭の生徒では、国語の正答率が66.6%、数学が63.2%でした。つまり、国語で18ポイント、数学で21.4ポイントもの差が生じていることになります。
本が中間的に多い家庭でも同様の傾向があります。「101~200冊」の生徒は国語63.7%、数学59.3%、「201~500冊」の生徒は国語66.5%、数学62.8%という結果です。この結果からも、本の冊数が増えるほど平均正答率が高くなっていくことが分かります。
特に注目すべきは、令和3年度と令和6年度を比較すると、「0~10冊」や「11~25冊」のような本が少ない家庭に属する生徒の割合が増えている点です。逆に、「101冊以上」の家庭の割合は減少しています。こうした家庭環境の変化は、生徒全体の学力低下を招く要因にもなり得ます。
中学3年生になると、学習内容はより高度で抽象的になります。そのため、読解力や思考力がより求められるようになり、家庭に本が少なく、日常的な読書習慣が不足している生徒ほど、授業についていくことが難しくなる傾向があります。
こうした学力差を縮めるためには、日頃から家庭で読書環境を整えることが非常に重要です。特に中学生はスマートフォンや動画視聴に時間を費やしがちですが、意識的に読書時間を設けたり、親子で本の内容について会話をする機会を増やしたりすることが効果的です。
学力の土台となる国語力と、それを活用する力が試される数学は、特に日常的な読書習慣の影響を強く受けます。家庭での本の冊数が、中学3年生の学力形成において重要なポイントとなっていることを、保護者の皆様にもぜひ意識していただきたいと思います。
なぜ近年、「本が少ない家庭」が増えているのか?
近年、家庭に置かれる本の冊数が少ないという状況が広がっています。この傾向が進んでいる理由としては、大きく分けて次のようなことが考えられます。
1. デジタルメディアの普及と読書習慣の変化
スマートフォンやタブレットの普及により、子どもたちが本ではなく動画やゲーム、SNSなどに時間を使うことが増えました。その結果、紙の本を手に取る機会が減り、家庭で本を買ったり置いたりする必要性を感じない家庭が増えています。
特に若い親世代ほどデジタルコンテンツに親しんでおり、紙の本への関心が薄れていることも一因です。
2. 本を置くスペースの確保が難しい住宅事情
近年の住宅事情も、本が少ない家庭が増えている要因の一つです。マンションやアパートなど都市部の狭小な住宅においては、本を大量に置く場所が限られています。そのため、多くの家庭が書籍を増やすことをためらい、読んだら処分するか、そもそも電子書籍を選ぶ傾向があります。
また、書籍を持たないミニマリスト的なライフスタイルを好む家庭が増えていることも影響しています。
3. 図書館や学校の図書室の利用増加
本を買って家に置かなくても、近所の図書館や学校の図書室で借りて読むことが一般的になったことも要因の一つです。公立図書館のサービスが充実し、オンライン予約や宅配サービスが普及したことで、家庭で本を所有する必要性が薄れています。
一方、図書館や学校の図書室の利用は良いことですが、「自宅に本がある」という環境が、子どもが自然に読書習慣を身につけるきっかけとなる側面もあり、その機会が失われている可能性があります。
4. 書籍代に対する経済的な負担感の増加
経済的な事情も、家庭の蔵書が減少している要因です。書籍は1冊ごとの価格が高く、家計にとって負担に感じられる家庭もあります。特に、教育費や習い事など、子どもにかける支出が多くなる中、本の購入が後回しにされることがあります。
その結果、本の購入頻度が減り、家庭の蔵書数も減少傾向にあります。
5. 読書の重要性に対する認識の低下
読書が子どもの学力や思考力、表現力を育てる重要な要素であることが知られている一方、具体的に家庭での読書がどれほど影響を与えるのかを意識していない家庭もあります。
「本を読むこと」よりも、テスト勉強や宿題に追われる日々の中で、「読書の時間」を優先させないことが、結果として家庭の蔵書が増えない原因となっているのです。
まとめ:家庭で本に親しむ工夫が求められている
このような理由から、本の少ない家庭は増えています。しかし、家庭に本があることで子どもの学力や知的好奇心が育まれることは、多くの調査結果が示している通りです。
家庭環境を整え、意識的に本を手に取る習慣を作ることが、今の時代においてますます重要になっています。デジタルメディアとの適切なバランスを保ちながら、家庭での読書環境を見直してみることが必要とされています。
「本がない家庭」でも学力を伸ばすために家庭でできる3つの対策
家庭にあまり本がなくても、子どもの学力を伸ばす方法はあります。ここでは、家庭で手軽に取り組める具体的な対策を3つご紹介します。
① 図書館を積極的に活用する
自宅に本をたくさん置けない場合は、公共図書館や学校の図書室を積極的に利用しましょう。子ども自身に好きな本を自由に選ばせることで、本に対する興味や読書習慣を自然に育むことができます。
定期的に図書館に通う習慣を作ると、本を読むことが日常の一部となり、語彙力や読解力が向上します。さらに、図書館が主催する読み聞かせや読書イベントに参加することで、本への興味をさらに深めることができます。
② 親子のコミュニケーションを工夫する
家庭での親子の会話が豊かな子どもほど、読解力や表現力が高まります。日常的な会話の中で、「今日はどんなことがあった?」「このニュースについてどう思う?」など、子どもが自分の考えを言葉にして伝える機会を積極的につくりましょう。
また、子どもと一緒にテレビ番組や映画を見た後に感想を話し合ったり、気になったことを一緒に調べたりすることも効果的です。親子の会話の中で考える力や表現力を自然に育てることができます。
③ デジタル教材や電子書籍を効果的に利用する
近年はスマートフォンやタブレットを利用した学習アプリや電子書籍も充実しています。紙の本が家になくても、デジタル教材や電子書籍を活用することで、知識や語彙を増やすことが可能です。
特に電子書籍は、場所を取らず気軽に購入・保存できるため、住宅スペースが限られている家庭にも最適です。また、学習アプリを通じてゲーム感覚で学べるコンテンツを取り入れることで、楽しみながら子どもの知的好奇心を刺激できます。
本が自宅にないという理由だけで、子どもの学力が伸びないわけではありません。工夫次第で、子どもの興味や意欲を引き出し、学力をしっかり伸ばすことが可能です。ぜひ、ご家庭の状況に合わせて取り組んでみてください。